中国Bizコラム・CCIDの眼

中国ビジネスの眼

 中国におけるマネジメントソフトウェアの新たな成長分野(2008年9月3日)


 2008年第2四半期のマネジメントソフトウエア市場は、昨年同期比19.6%の伸びとなり、22億5,300万元規模に達した。第2四半期の市場ニーズを牽引した原動力の一つは、北京五輪が間近に迫り、大型国際イベントが開催される中で、電気通信業や政府など、五輪と密接に関連する業界が、五輪開幕に向けてラストスパートをかけたため、市場全体の活況につながったことである。また、第3四半期に対する五輪の影響が懸念されたことから、一部顧客が情報化分野への大規模な投資を前倒しで行ったことも一因。さらには、中小企業のSaaSに対するニーズが飛躍的に高まり、中小企業市場における財務ソフトウエアやユーザー管理ソフトウエア、マンパワー管理ソフトウエアの需要の伸びが、市場全体の伸びを大きく上回ったことも原因である。中小企業市場では、ソフトウエアメーカーが期待するような爆発的な伸びこそなかったものの、中小企業市場の情報化分野での取り組みが進み、中小企業をターゲットとする多くのソフトウエア企業に希望を抱かせた。既存のマネジメントソフトウエア市場に対するニーズはひと段落し、主要メーカーは新たな成長分野の発掘を迫られているが、SaaSはその選択の一つである。

  サービスに対する価値が高まり、ハイエンドユーザーはプロバイダーの上質なサービスを選択
  マネジメントソフトウェア市場全体を見ると、マネジメントソフト収入全体に占めるライセンス収入の割合が年々減っている。一方、コンサルティング、統合、メンテナンスなどのサービス費用の割合が増加している。その原因は、初期の頃にはメーカーがソフトウェア販売時にサービスをセットで提供していたが、現在ではサービスにも明確な定価を設定する戦略に変更したことと関連している。さらに言えば、ソフトウェア市場におけるサービスの重要性が高まる一方であるためである。グループ企業やグローバル企業に代表されるハイエンドユーザーでは、この点が一層明確である。ハイエンドユーザーにとっては、カスタマイズ開発や業界知識などがソフトウェアに反映されているかどうかが重要であり、多くのハイエンドソフトウェアメーカーが競争する重要分野になっており、また、システムの改造・バージョンアップが、グループ企業が環境変化に適応し競争力を高める上での有効手段になっている。

  ハイエンドのマネジメントソフトウェア市場では、競争はすでに、ソフトウェアメーカー同士の競争にとどまらず、ソフトウェアメーカーを中心とした産業連盟同士の競争へと移行している。ハイエンド市場では、比較的高度な産業チェーンに対するコントロール力のある大手グローバルソフトウェアメーカーが、なお、市場全体をリードしている。SAPやOracleがその代表である。SAPを例にとると、IBMやアクセンチュアなど、多くの国際的な大手サービス企業が関連しており、グローバル企業向けに、ソフトウェアのライフサイクルに関連した技術サポートやサービスを提供している。この点において、国内のソフトウェアメーカーは、まだまだ実力差がある。用友NCや金蝶EASに代表されるハイエンドソフトウェア製品は、国内市場では健闘しているものの、ハイエンドユーザー向けのコンサルティングやアクション、サービスなどの能力がやはり大きな課題である。

  マネジメントソフトウェアメーカーがSaaSに取り組めば、チャンスを掴み、リスク回避もできる
  中国の中小企業は膨大な数にのぼり、2006年末時点で4,200社に達しているが、それでも我が国の中小企業の多くは情報化程度が低く、国内のほとんどの中小企業の製品は、財務処理や一般ファイル処理に限られており、ERPやCRM、コーポラティブオフィスを実用化した企業は少ない。我が国の中小企業市場の潜在力発掘は、そう容易なことではなく、マネジメントソフトウェアの広範な実用化は、情報化の初期段階にある中小企業にはマッチしない。ソフトウェアのサービス化については、初期段階での投入が少なく、柔軟に使用できるというポイントが、現在注目される情報化形態である。
 
  SaaS市場においては、ビジネスモデルが多く、中でもSaaSサービス専門メーカーには、Salesforce、八百客、Xtoolsを含めて、インターネットプロバイダーが提供するSaaSサービスによるもの、例えば、阿里軟件や三五互聯などがある。様々な形態のサービスモデルに対して、マネジメントソフトウェアメーカーが提供するSaaSサービスは、技術面でかなり有利であるが、中小企業ユーザーは経営面での経験が乏しく、かつ、仮にターゲットとする市場ポジションが不適当な場合は、もともとの業務との矛盾を引き起こしかねない。つまり、マネジメントソフトウェアメーカーが提供するSaaSという視点で見ると、現在、金蝶の「友商ネット」がずば抜けて優れており、市場投入から1年で、中小企業ユーザーが育っており、市場ポジションは比較的成功したと言える。これと比較すると、用友は半歩遅れで、最近になって情報化入門企業向けのSaaSサイト「偉庫ネット」を開設したばかりだ。ところが、実は、「偉庫ネット」は2000年にはすでに開設されていたが、当時はまだ機が熟しておらず、ユーザー数も限られ、偉庫ネットはなんとかもちこたえてきたのが現状だ。ここ数年、用友ソフトウェアは、昨年重点的に取り組んだ「移動商務」や今年の「偉庫ネット」を含めて、様々な分野での挑戦を続けているが、すべてが意に叶ったものではない。多角化という点では、用友は年初にも、年内に買収を通じてPLM分野での発展を目指すことを明らかにしている。市場競争の激化と多角化という拡張思考が、用友の経営コストを増加させており、新たな業務成長分野を速やかに開拓できなければ、営業利益の減少をもたらす恐れがある。用友と金蝶の挑戦から分かるのは、マネジメントソフトウェアメーカーの今後の飛躍的発展には、なお、一層の努力が必要だということだ。


  • 発行者:CCID(賽迪顧問)ソフトウエア・サービス産業研究センターコンサルタント 陳英麗
  • データ :CCID(賽迪顧問)2008年7月
  • 邦訳者:CCID(賽迪顧問)日本事務所
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