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 中国低炭素社会への道における取捨選択

――中国特色のある低炭素社会への道を選択 (2010年7月14日)


 

 「発展途上国である我々の低炭素経済と技術には独自の定義と内容がある。我々は、中国経済のモデルチェンジ及び構造調整のための良好な基礎を確立することを目標とし、優質エネルギーの利用方法の拡大、再生可能エネルギーの発展、環境の改善などを主な内容としている。そのため、我々が提案する低炭素経済は先進国が論じているものとは異なる。」 第九回中国経済論壇にて、国務院参事官であり科学技術部元副部長の劉燕華が、中国の低炭素経済発展モデルについてこう解説した。

 

 低炭素経済は現在既に世界経済発展の趨勢となっている。同時に低炭素経済の発展は、中国経済発展のモデルチェンジと革新型国家の建設にとっても必須な道である。第 12次五ヵ年計画開始の際、中国がどのような低炭素経済発展の道を選ぶかが現在注目されている。

 

 西洋のモデルを参考とし、中国特色のある低炭素発展モデルを選択

 

 世界の主要先進国は、気候変動への対応策・経済発展の新たな成長点として次々と低炭素経済の発展計画を制定している。アメリカは今後十年以内に 1500億米ドルを代替エネルギー開発に投資すると発表し、また、総額約 30億米ドルの再生可能エネルギー事業向け投資ファンドを設立した。イギリスは 2020年までに 1000億米ドルを投じて風力発電所を 7000ヵ所建設する計画である。また、ドイツは長期に渡り、風力・バイオ・太陽エネルギーなどの産業の発展に多額の補助金を投入している。日本は「 グリーン ・ ニューディール 」を提唱し、主に地熱・風力・バイオ・太陽エネルギーなどの再生可能エネルギーの発展に従事している。統計によると、主要先進国による低炭素経済発展計画への総投資規模は既に 5000億米ドルを超えている。 こ れから、先進国は既に「低炭素経済」の発展モデルを国家戦略の一環として推進していることが見て取れる。しかし、これらの国での低炭素経済の実現は、その経済発展の特徴との関連性が高い。先進国は既にポスト工業化社会に入り、経済構造において第三次産業の占める割合が突出して高く、また工業設備及び技術も既に高レベルに達している。つまり、これらの国の低炭素経済は、工業化による環境へのダメージを基本的に解決した後、ソーラー・風力エネルギーを主体とした再生可能資源の発展に従事し、 CO2排出量を削減するというモデルである。

 

 しかし、中国においてエネルギー需要及び消費は依然急速な拡大を続け、またエネルギー構成は石炭を主体としているため、中国における低炭素エネルギーの使用は限られている。中国経済の発展の動力は依然として第二次産業で、 CO2排出量の約 70%を占めている。その第二次産業においての生産技術レベルは低く、科学技術の研究開発能力にも限りがあるため、中国経済は「高炭素」型なのである。中国も新エネルギー産業の発展に力を注いでいるが、中国経済の発展段階及び特徴は欧米先進国と異なるため、低炭素経済の実現においても、欧米国家の発展モデルを完全に模倣することはできない。中国は「共同だが区別のある責任」を負うという原則の下で、自らの経済成長レベルに合う低炭素社会への道を探るべきである。

 

 中国の経済発展の状況及び特色に基づいた低炭素経済の発展モデルは、下記の五つの内容を含むべきである。第一、クリーンエネルギーを主に使用する産業クラスターを積極的に形成し、最先端の技術を活用する。第二、クリーン・省エネ技術により、国内産業とエネルギー利用の効率を向上させる。第三、産業構造及びエネルギー構造の調整を加速させ、構造的な要因による CO2排出を削減する。第四、環境保護産業の発展を強化し、各分野における CO2排出を削減する。第五、低炭素経済・産業計画を策定し、遂行することにより、市場システム及び制度を改善させる。つまり、中国の低炭素経済の発展モデルは、経済発展モデルに基づき決めるべきなのである。中国経済の発展モデルに基づいた低炭素社会モデルこそが、欧米先進国と異なる中国が、低炭素経済を実現するために必ず選択するべき道である。

 

 不適切な技術を捨て、中国の国情に合う低炭素応用技術を選択

 

 中国は低炭素経済の発展において良好なスタートを切ったが、核心技術においては依然先進国と大きな距離がある。例えば、 CO2排出ゼロ技術の中でも、風力発電が中国において最も速いスピードで発展している新エネルギーで、 1.5MW 以下の風力発電機を持っているが、ベアリング、コンバータ、制御システム、ギアボックスなどの核心的なパーツにおける生産技術においては依然劣りを見せている。また、中国は世界一の太陽電池生産国だが、多結晶シリコン太陽電池向けのシリコン製造技術は、アメリカ、日本、ドイツと比べると大きく遅れており、そのエネルギーの平均消費量は世界先進レベルの 1.5〜 2倍である。

 

 低炭素技術の自主研究開発及び導入において、中国は国情を尊重し、全てを取り入れるのではなく、「選択性導入」を図らなくてはならない。それは、最先端技術は必ずしも合理的に応用・普及されるわけではないからである。例えば、二酸化炭素を油井に注入することにより、二酸化炭素を地中固定することができ、更には石油の生産量・クオリティーをアップさせることができる。しかし、その費用対効果は低くいため、この方法は現在の中国経済発展には適していない。

 

 中国の「特殊な国情」に基づき、今後数年間、低炭素技術はクリーン・コール、ソーラー発電、グリーン家電、スマートグリッド、エネルギー再生利用などを中心として発展するだろう。

 

 下表は、 CO2排出量の多い各分野に必要な技術を示している。

 

表1 中国の低炭素化を実現するための重点技術

2005-2009年世界のソーラーパネル新規設置容量とその成長率

 

 中国のエネルギー資源は「富炭、少ガス、貧油」という特徴を持つため、短期間の間に石炭を主体としたエネルギーの消費構成を変えることはできないだろう。中長期から見ると、中国において低炭素経済を実現させるには、無汚染のクリーンコール発電技術の発展が重要で、石炭ガス化複合発電技術 ( IGCC)が今後クリーンコールパワーの主流となるだろう。超臨界・超超臨界発電ユニットの発展は速く、既に基本的に国産化・量産化を実現している。これら高効率・低消耗の新型ユニットは、 石炭ガス化複合発電システム及びポリジェネレーション技術の発展に良好な基礎を打ち立てた。

 

 同様に、新エネルギー自動車の発展の強化は、低炭素エネルギーの供給及び交通における省エネにおいて重要な措置であり、エネルギー需給の矛盾の緩和及び環境の改善において牽引効果を持つ。新エネルギーの発展を積極的にサポートし、スマートグリッドの建設を通して電力の遠距離・大規模な供給を実現させることにより、急速な経済発展による電力需要を満足させる必要がある。

 

 目先の利益を捨て、中国の持続的発展を支える低炭素化を選択

 

 中国は現在 CO2排出量において世界第一位、エネルギー消耗量において第二位で、世界で最も汚染の深刻な国の一つでもある。長期間にわたる「粗放式」経済成長と低い環境保護意識により、中国経済の持続性は大きなダメージを受けている。そのため、中国は目先の利益を捨て、中国独自の低炭素経済を目指すべきである。「低 CO2排出を特徴とした産業システム及び消費モデルを作り上げ、気候変動対策における国際協力に積極的に参与し、気候変動に対する世界的対応の進展を推進するべきである」と温家宝総理は第十一回全国人民代表大会における政府活動報告の中で、再度強調した。

 

 低炭素経済の発展は、中国にとって現在のエネルギー高消耗型の経済成長モデルを捨て、長期的な発展による利益に着目することを意味する。中国の「選択性導入型」の低炭素社会への道はまだまだ長いが、独自の低炭素経済モデルを見つけ出し、「グリーンな未来」を築き上げることは、中国経済にとって必然的な道であると言える。


 

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